■ フォークナー、ノーベル文学賞受賞スピーチ

私は人間の終焉を受けいれることを拒みます。人間は単に耐えることができるから、最後の赤い夕日の中で潮の干満にも濡れない価値なき最後の岩から運命の最後の鐘がディンドンと鳴り響く時に、その取るに足らない疲れ知らずの声がまだ話しているのが聞こえるから、だから人間は不滅だ、というのはあまりに容易です。私はこの考えを受けいれない。私は人間は耐えるだけでなく、勝つことができると信じています。人間は多くの生き物の中で唯一疲れ知らずの声を持っているから不滅なのではなく、魂があるから、同情と犠牲と忍耐の能力のある精神を持っているからこそ、不死なのです。詩人や作家の使命はこういうことについて書くことです。人間の心を押し上げ、人間に過去の栄光としての勇気と名誉と希望と誇りと同情と哀れみと犠牲のことを思い出せることが詩人と作家の特権なのです。詩人の声はただ人間の記録であるばかりでなく、人間の忍耐と勝利の支えとも柱ともなり得るのです。