2015-08-04-Tue 大腸内視鏡検査 [長年日記]

不二越病院へ。3年ごとに。前回二回ともポリープがあった。

今回もポリープがあれば、内視鏡で切ってもらい、一日、入院。

「妻」ウンベルト サバ 「トリエステとひとりの女」より、須賀敦子訳。

うち沈んで家に戻ると、窓辺で

まっている彼女が、きれいな、いとしい

妻が、身ぶりひとつで、ぼくの悲しみを察して、

表情から不快その他を読みとると、たちまち、

しっかりとした二匹の蛇みたいな

優しい腕を首にまわして、抱きついてくる。

ぼくひとりを、彼女のきびしい声がなじる。

「いいわよ」と言う。「そんな顔をして帰ってきて、

私にキッスもしてくれなくて、娘に笑ってやるでなし。

ただ、つったって、そっぽをむいて、だまってる。

じぶんを苛めぬくすごい才能なのかしら、あなたのは、

そう言いたくなるわよ。なのに私は・・・こっち見てよ、

私のことばが信じられないのなら、

涙が掘った、たくさんのすじを見てよ。

ひとりであなたを待っていたのよ、この家を

かたづけながら、ほら、

はじめての日みたいに、きれいにして、

あら、もう聞いていないのね。あきれたわ、

ほんとに腹がたつわよ。

だれかといっしょに棲んでるからには、

じぶんひとりの悩みにしておく

権利はないのよ。

ちゃんと打ち明けて、私たちの

中にいる、愛するものたちと、

分ちあうものよ」

「うんざりだな、きみには、まったく」

ぼくは心のなかでそう返事する。そして考える。

この世でいっしょにどこかへ行ってしまいたいのは、

この悲しみだけ、この言葉のない悲しみのほかにはなにもないのを、

どうすれば、ぼくの天使がわかってくれるか。ぼくの痛みは

ぼくだけのもので、ぼくのたましいだけのものだと。

妻にだって、いとしい娘にだって、これだけは譲れない。

愛するものたちにも、公平に分けられない。


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